あれはいつの事だったろうか。確か、任務先でディシャ=バリーが死んだ時だったか。
その事でが泣き崩れた事があった。
「なんで…ディシャが……ッ…」
悔しそうに地面を何度も叩くアイツを見て、俺はわからなかった。一人死んだくらいで
何故こんなにも涙を流せるのだろうかと。人間生きてればいつかは死ぬ、それが早い
か遅いかだけの事だろう。誰が死のうが、泣こうが、喚こうが、俺には全く関係無い。
今までずっとそうやって来たんだ。だから、アイツが泣いててもどうでもいいはずだ
った。
だけど何を思ったか、俺の手は彼女の肩にまで手が伸びていた。このまま抱きしめよ
うとでも思ったのだろうか。それでこいつが喜ぶのか…?
行き先の無くなった手を、気づかれない様に引っ込める。そして、俺は何も言わずに
立ち去った。
本当にどうでもいい事だったんだ。それなのに何でこんなにも後ろめたい気持ちになる
のだろう…。後悔してる事といえば、あの時彼女を抱きしめられなかった事。
「…」
白い花に囲まれて幸せそうに笑っている彼女に喋りかけても、返事は返って来なかった。
ふいに、視界がぼやける。ポトリ、ポトリと彼女の頬に透明な液体が滴った。
「……てめぇはいつも勝手な事ばっかりしやがって…っ…」
棺の中から彼女を起こし、強く強く抱きしめた。彼女を囲んでいた白い花びらがハラリと舞
い落ちる。ダラリともたれ掛かる身体、それは命の儚さを物語っていた。
お前ってこんなに軽かったのか…
皮肉にもを失った後で、沢山の事に気づかされる。お前がこんなにも小さかった事、白く
綺麗な肌をしていた事、そして…
俺が、お前に抱いていた感情…
「神田君は何で私の事"金魚"って呼ぶの?」
「あ?金魚(の糞)みてーにくっついてくるから」
「ふーん。それは、私の事可愛いくてしょうがないって解釈していいのかしら?」
「馬鹿かお前は」
もっと、ちゃんと会話してやるんだった。お前の笑顔も、声も、温もりも…全部
受け止めてやるんだった。明日になればまたお前の声が聞けると思ってた。もう、お前は俺にとって、
傍に居るのが当たり前の存在だったんだ。
ああ…そうか。アイツもあの時、こんな気持ちだったのかもしれない。今頃になって後悔して、知らず知らずの内に
自分を責めてたんだ…。初めて、こんなにも人が恋しいと思った。
手馴れてなくても、どんなに不器用でも、
やっぱり俺は、あの時抱きしめるべきだったんだ。
「…」
返って来るはずもない返事を何処かで期待しながら、俺は何度も彼女に呼びかけた。
最後の餞をあなたに