「ベルフェゴール様、起きて下さい。そろそろお時間です」
シャッと響くカーテンの音と同時に、朝の程好い光が部屋に差し込んできた。重たい目をゆっくりと開けて見れば、使用人であるがにこりと微笑みながら、オレの前に立っていた。
「おはようございます、ベルフェゴール様」
朝食の準備は既に出来ていて、カップに注がれたコーヒーの香りが余計に食欲を引き立てる。ベットから起き上がるのもダルくて、オレはそのまま暫く彼女を眺めていた。
「どうかしましたか?」
「こっち来いよ、」
そう手招きすると、仕事中だからと初めは戸惑っていた彼女だったが、「ふーん。王子に逆らうんだ?」と言えば、少し躊躇いながらも傍に寄ってきた。ハイ、良く出来ました。お前はオレの物なんだから、オレの言う事さえ聞いてればいーの。
傍に来た彼女の腕を無理やり掴み、そのままベットの上へと押し倒した。ギシッ―ベットの軋む音が一瞬激しく響く。抵抗しないよう彼女の両腕をしっかりと押さえつけ、喰いつくように唇を重ね合わせた。
「んっ…だ、駄目ですっ…ベルフェゴール様」
「つーかおまえ誰に向かって口利いてんの?」
手荒く引き千切った服の隙間から、彼女の白い肌が次第に露になっていく。首筋からゆっくりと舌を這わせれば、それに反応するように彼女の身体が小さく震えた。ずっと欲しかった。ずっと彼女の肌に触れたかった。それは人を殺すという行為よりも遥に快感で、オレは長年突っ掛かっていた任務を成し遂げたような、そんな感覚に陥った。
「…、ふっ…」は声を押し殺すようにして泣いている。いまだに身体が小刻みに震えているのを見ると、彼女が嫌がっているという事は一目瞭然だった。このまま無理やり抱いてしまう事も出来たが、今まで大切に扱ってきたせいか、そんな
彼女を前にすると何も出来なくなっていた。
「うっわ、マジでしらけるんだけど。そんな顔されてまで抱きたいとは思わないね」
「…っあの、」
「嫌なら行けよ。おまえの代わりなんか他にいくらでもいるし」
もちろん本心じゃなかった。本当は今すぐにでも抱きたかった。だけど大切なものほどその先に踏み入れるのには勇気がいることで、残念ながらオレにはそれを無理やり壊そうという気は持ち合わせていなかった。あーあ。何やってんだオレ。カッコワル。
「……私、嬉しいんです」
「え?」
「大好きなベルフェゴール様に抱かれるなんて、夢見たいで」
「愛しています、ベルフェゴール様」その言葉を聞いた途端、理性も何も利かなくなった。たとえもしその言葉に愛が篭っていなかったとしても、その場を乗り切るためだけの嘘だとしても、オレにはそれがこの上なく嬉しく思えて、気が付けば無我夢中で彼女を抱いていた。
初めて彼女を抱いた日
2007/7/8