読み終えた本をぱたんと閉じると、はまるで不思議なものを見るかのように視線を向けた。「ベル、さっきから何してるの?」その問いかけに一瞬思考を巡らせる。部屋に遊びに来てから彼女が本を読み終えるまで何をしていたかと言えば、特に何もしていなかった。ベットの上に寝転がって、隣に居るをただ眺めていた―考えてみたらおかしな話だ。オレがせっかく遊びに来てやってんのに、此方に目もくれず黙々と本を読み続けるとかありえなくね?
「ごめんね、この本あまりにも面白くて」
「王子を待たすとかあり得ないから。じゃ無かったらとっくに殺してるぜ?」
「ホントにごめん。これで許して」
てっきり唇にキスしてくれるのかと思ったら、頬に軽く触れただけで終わりだった。
何だか拍子抜けしたオレは物足りなくなって、の身体に跨って強引にキスをした。越えてはいけない一線を越えてしまったような感覚で、性欲の方が勝ってしまえばもうセックスに結びつけること以外何も考えられない。
彼女を自分のものにする方法が身体で繋ぎとめることしか思い浮かばないほど、単純な思考回路で出来ていた。
はっと気づいたのは両手で身体を遠ざけられた後で、呼吸を思うように出来なかった彼女は苦しそうに咽ていた。
「…やっぱり、よくないよ」
「何が?」
「だって、私たち恋人同士でもないのに」
とキスをするのは初めてだった。何度か部屋に遊びに来ては居たが、いつも二人でベットの上に寝転がって、ボスの機嫌が悪いやらスクアーロがまたアホな事やらかしたやら他愛の無い話ばかりしていた。それで満足だった。幸せだった。オレはを、自分のお姫様のように大切にしていたから。
だけどもう、我慢の限界だった。
「はオレのこと好き?」
「…よく解んない」
「オレはお前が好き。殺してーくらい好き。今すぐオレのものにしたい」
「そ、そんなこと、突然言われても困る」
彼女は顔を真っ赤にして、両手で顔を覆ってしまった。そんな姿を見て可愛いと思ってしまう自分は相当彼女に惚れこんでいるのだろう。
これ以上何かを言ったら余計に混乱するだけだと判断したオレは、落ち着かせるようにそっと頭を撫でてやった。
「なら、待ってやるから」
それだけ言ってベットを降りようとしたとき、顔の前で塞がれていた手がゆっくりと退けられるのが見えた。そのまますっと伸びてきた
彼女の手はオレの服の袖を掴み、そして囁くような小さな声で言った。
「ベルとのキス、嫌じゃなかったよ」
すぐ傍にある未来
2007/10/17