は昔から写真を撮るのが好きだった。何処へ行くにも必ずカメラを持っていって、記念日でも無いのに何かと理由をつけて写したがった。動かない物を撮って、何が楽しいのか僕には全くわからないけど。

「雲雀ー!」

カシャリ―
振り向いた途端、聞き慣れた機械音が鳴った。

「ベストショット!これ、売れるかもしれないなぁ」
…いい加減にしないと噛み殺すよ」
「写真撮るくらいいいじゃん!減るもんじゃないし」
「目障り」
「ひどい!いいもん雲雀のケチ」

僕に向けて思い切り舌を出すと、彼女は少し不貞腐れながらも被写体を花へと移した。ピンク色の花の中心で、蜜蜂が羽を休ませている。シャッターチャンスを逃すまいと楽しそうにカメラを構える彼女の横顔は、青く染まった空に馴染んでいて、何故だか解らないけど一瞬だけ写真に収めたいような、そんな気持ちになった。…なんて、そんな事口が裂けても言ってやらないけどね。

「ねぇ雲雀」
「なに」
「二人で、写真撮らない?」
「嫌だ」

ぴしゃりと言い放つと、さっきまで笑顔を見せていた彼女は一瞬にして今にも泣き出しそうな顔になった。「だって一度も二人で撮った事無いし…」そう言われてみればはいつも"何かを撮る"役で、自分が写る事は滅多に無かった。それなら僕は写らなくてもいいじゃない、そう思ったけど彼女の顔を見たら酷く落胆している様子だったからしぶしぶ承諾した。

高さの丁度いい台を見つけて、その上にカメラを固定する。嬉しそうにレンズを覗きながら、「もうちょっと左」だの「あ!行きすぎ」だの指示を出してきた。まったく、カメラマンにでもなったつもりかい?

「此処が光ったら3秒だからね!いくよ、せーのっ」

パタパタパタ―シャッターを押してから急いで此方に走って来て、少し息を荒くしながら僕の隣に位置付いた。それとほぼ同時に、カメラの右上の部分が赤く点滅し出す。

「3、2、1…」

カシャッ―

シャッターが切れてから妙な違和感に気が付いた。ただ立っていただけのはずなのに、いつの間にかの手と自分の手が繋がれていたのだ。

「あ、ごめん!無意識に手、繋いじゃった」

我に返ったのかは繋いでいた手を急いで離し、真赤に染まった顔を隠すように俯いた。僕が手を伸ばせば―噛み殺されるとでも思ったのだろうか―恐れるようにビクッと肩を震わせ、その様子が弱くて群れる僕の嫌いな草食動物に重なって見えた。だけど、不思議と噛み殺そうという気は起こらなかった。

顎の辺りに手を添えて、の顔をゆっくりと上げさせた。瞬間、視線と視線が交じり合う。弱くて脆い、草食動物の目。「噛み殺してあげようか?」それに答えようとが口を開きかけたけど、その返事も待たずに僕は彼女にキスをした。




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唇を離した後、固まってしまった君の顔はまるで写真を見ているようだった。


2007/5/8