真夜中の道路。車の気配すらない静かな道の上で、私達はひたすらバイクで駆け抜ける。頭上には満天の星空、月の光が海の水面に反射して、きらきらと輝いていた。
腰にしっかりと腕を回し、自分の顔を彼の背中へぴたりとくっつける。恭弥の背中が大好きだった。大きくて、温かくて、それはまるで赤ん坊が母親に抱かれているときみたいに、心から安心出来た。
「大好きだよ、恭弥」
ぽつりと呟いた言葉は風と共に消えていった。聞こえていないとわかっていながらも、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。私はあと、どれくらい彼に、想いを伝えられるのだろう。どれくらい傍に、居られるのだろう。永遠なんて儚い願いだけど、それでも長く、出来ればこの先ずっと一緒にいたいと思った。
心から愛した、たった一人の人だから―。
もう何キロ走ったのかわからない。結構遠くまで来た気がする。気づいたらエンジンは止められていて、バイクを降りた恭弥は後ろを振り返ると、私のヘルメットをそっと外した。瞬間彼の切れ長の目と、私の目が、パチッと合う。
「眠ってたの」
「そうみたい。あまりに心地良かったから」
ふっと小さく笑うと彼は「どうりで静かだと思った」と言った。バイクから降りると恭弥はそっと私の手を取り、そのまま海の方へ連れて行かれた。
少しずつ、少しずつ、色味を増す空。クリーム色の砂の上に、二人の足跡が小さく出来て行く。
波の音以外何も聞こえない。今だけは、二人だけの、世界―。
立ち止まってしばらく幻想的な海の景色に見入っていたら、後ろから彼の手が伸びてきてそのままぎゅっと抱きしめられた。
「恭弥?」
話しかけても返事はなかなか返ってこない。その代わりに抱きしめる力が強くなっていって、私はそっと恭弥の腕に手を乗せた。
愛しいと思う気持ちが、今すぐにでも爆発しそうだ。
「恭弥、大好きだよ。ずっと好き」
言ってる途中で涙が溢れてきた。今度は風に流されないように、消えてしまわないように、はっきりと確実に彼に伝えた。
今この時間が幸せすぎて、これ以上の未来なんてまだ考えられなくて、ずっとこの瞬間が
続けばいいと思った。私の気持ちは、ちゃんとあなたに届いてる―?
「」
小さく名前を呼ばれて、横を振り向いた瞬間、キスされた。
今まで何度かしてきたけど、やっぱり今も初めと同じくらいドキドキした。
開けっ放しだった目をゆっくりと閉じ、彼の温もりを、感触を、必死に心の中に焼き付けた。
「こういうの、あんまり言いたくないんだけど」
「うん、何?」
「……を、愛してる」
耳元で彼の優しい声が響く。普段あまり口に出さない恭弥が"好き"だなんて言い出だしたものだから、驚きと喜びで
また涙が溢れて来た。あなたの言葉一つだけで、私はこんなにも幸せになれる。私の世界は、あなた中心に回っているから―。
「約束して。傍を離れないって」
「……うん」
「もし破ったら君を、…」
彼のお決まりの文句も待たずに、その言葉を遮るように、私はそっとキスをした。
二人の足跡
2007/8/16