目標人物発見!隊長、ターゲットとの接触まで後5メートルであります!
赤い絨毯の敷かれた廊下の角のところで、私は一人息を潜めて隠れて居た。後数メートルで接触する、ヴァリアーの暗殺部隊で、銀色の長い髪がトレードマークの男を驚かせるために。
後5m、
4、3、2、1…。
「スクアーロ!」
スクアーロが角を曲がるのを見計らって、私は勢いよく彼の前に飛び出した。案の定彼は一瞬驚いた顔を見せたが、前に現れたのが私だと解かるといつもの鋭い目付きに戻り、キッと私を睨みつけた。
「う゛お゛ぉい!てめぇいきなり出てくるなって言ってんだろぉ!」
「ね、ね、びっくりした?」
「し、してねぇ!」
「うそ、さっきのスクアーロの顔、ヤバかったよ!こーんな顔してた」
スクアーロの驚いた顔を真似してみせると、彼は少し怒った顔して「馬鹿にしてんのかぁ!」と言って私の頭をポンと叩いた。本当、言う事とやることが矛盾してるから可笑しい。顔は凄く恐そうなのに、それとは真逆の彼のそんな優しさに私は惹かれていた。例えボスに酷い扱いを受けようとも(今までスクアーロがボスにやられて血を流している所は何度も見てきた)、断固たる忠誠心と馬鹿正直さを持ったスクアーロが大好きだ。
足が長い分歩くスピードも速くて、私は慌てて彼の後を追いかけた。
「う゛お゛ぉい!付いてくんじゃねぇ!」
「残念でした!私もたまたまこっちに用事があるの」
「……勝手にしろぉ!」
さっきまで付いていくのがやっとだったのに、今は小走りしなくても彼の速さに付いて行ける。ということは、スクアーロは私を気遣って歩くスピードを緩めてくれたのだ。
彼の隣を歩けるのが凄く嬉しくて、思わず口元が緩んだ。
「ねぇ、スクアーロ」
「なんだぁ?」
「好き」
「…!」本日二度目の驚いた顔。前から覗き込むようにして見ると、口をぽかんと開け、目は大きく見開かれていた。どうやら動揺を隠し切れない様子だ。からかってるつもりはないけど、彼の反応を見るのはいちいち楽しい。
「ば、馬鹿言ってんじゃねぇぞぉ!」
「ふーん。スクアーロは私のこと嫌いなんだね」
否定するかと思いきや、スクアーロは急にピタリと足を止め黙ってしまった。あれあれ?其処は否定して欲しかったんだけど、なぁ。ちょっと軽く凹むぞぉ…。
何だか一人舞い上がってたのが恥ずかしくなって、そんな気持ちを悟られないよう精一杯の作り笑顔で言った。「な、なんてね!今の全部嘘だから忘れてね!」早くその場を立ち去ろうと、彼に背を向けた。
「う゛お゛ぉい!!」
その瞬間ガシッと腕を掴まれ、引っ張られたと思ったらそのままスクアーロの胸に身体を押し当てられた。さらりと彼の長い髪が頬をくすぐる。え?何?どうなってるの?私今スクアーロに抱きしめられてる?
「ちょ、スクアーロっ…!何して…」
「うるせぇ!お前は一生オレの傍に居ろぉ!」
「ええ!?何それどういう意味!!?」
「お前が好きだって言ってんだぁ!」
相変わらず声がでかい、そんなことをふと思ったが、今のこの瞬間が嬉しすぎて思わず涙が溢れた。
それは極有り触れた
穏やかな朝の出来事でした
2007/6/7