綺麗なテーブルの上に堂々と置かれている彼の足。その真横にあるウィスキーの入ったグラスは、色が薄くなる一方でなかなか量が減らない。私は随分と長い時間この部屋に居る気がした。無論、緊張のせいで時間が経つのが遅く感じただけなのだろうけど。
カラン―グラスの中の氷が溶けて、涼しい音がした。
「」
急に投げかけられた言葉にびっくりして、思わず肩が飛び跳ねた。言葉を返す暇も無くあっというまにソファの上に押し倒され、
彼の蹴飛ばしたグラスが勢い良く床に落ちていくのが見えた。
外見はこんなにも恐そうな顔をしているのに、彼のくれるキスは乱暴だけど、何だか優しい味がした。
「ザンザス様」
「なんだ?」
「何故、私をお選びになったのですか?」
ずっと不思議に思っていた事だった。私なんて地味でそこまで可愛いわけでもないし、ましてやセックスのテクニックなんて全くと言っていいほど持っていない。他にいい女なんていくらでも居たはずなのに、彼が私を選んだ理由なんて見当もつかなかった。
「ハッ、自惚れてんじゃねぇよ。いいか、てめーはオレに抱かれるだけの女だ。それ以外何もねえ」
「何も、…ですか」
「貴様如きがオレに抱かれるんだ、光栄に思え」それこそ自身たっぷりにザンザス様は仰って、そのまま引き千切るようにして服を脱がせた。
ザンザス様が嬉しそうに笑っている顔なんて、初めて見た。身体中を滑る彼の手はとても温かくて、緊張で震えていた身体もいつの間にかぴたりと治まっていた。
彼を喜ばせることが出来るのなら、彼の怒りを静めることが出来るのなら、そこに愛は無くても私はザンザス様のために何だって出来る気がしていた。
だけど、私は知ってしまったのだ。
「ザンザス様」
「あぁ?」
「愛しています」
私は今、目の前の彼に、恋をしている―。
キスよりも甘い罠
2007/9/11