星を見るのが好きだった。真っ暗闇の中、部屋の出窓の所に腰を掛けて、飽きるまでずっと空を眺めていた。
今にも消えてしまいそうな朧げな月が、夜空に綺麗に溶け込んでいる。
少し開け放した窓の隙間から、ひんやりとした空気が入り込んできた。もうすぐ夏が、終わりを告げようとしている。
カツン、と靴が床に響く音が聞こえて心臓がドキリと跳ねた。
ドアをノックせずに堂々と入り込んでくる人なんて、彼以外思いつかなかったからだ。
視線を夜空に向けたまま、足音が段々と近づいてくる様子を耳で感じ取る。それに比例するように、心拍数はどんどん増していった。
「また空を見ていたのか」
真向かい側に腰を掛けて、私の飲んでいたウィスキーを奪い取るとボスはそれを一気に飲み干した。
「わたし、ここから見える空が一番好き」
「くだらねえ。空なんか何処で見ても一緒だろう」
「此処から見えるのは、格別綺麗なの」
未だ空から目を逸らせないでいる。夜空に光る星が綺麗だからとか、幻想的な月に見入ってるとか、そんな理由では無くただ単に、
彼と目を合わせるのが恥ずかしいからだった。この異常なほど高ぶる感情を抑える方法を、私はまだ見つけていない。
迂闊だった。ほんのちょっと視線を横にずらしただけなのに、彼の視線と私のそれが綺麗に交わったその瞬間、キスをされた。
掴まれた腕の部分から、温かい感触が伝ってくる。とろけてしまいそうな濃厚なキスのせいで、何も考えられなくなった。
「抱いて、ザンザス」
ほとんど無意識に言ったその言葉を聞き逃すはずの無い彼は、そのまま私を抱きかかえベットの上へと運んだ。
先程まで瞳に写っていた星空に変わって、染み一つ無い天井と、覆い被さるように大きな影が私の視界を占領した。
「お前から誘ったんだ。覚悟は出来てるだろうな?」
悪ぶった笑顔なのにどうしてそれを愛しいと思うのか、夏の終わり、星の散らばる大空の下で、今日も私は貴方の笑顔に酔い痴れる。
星降る夜に
2007/9/16