休日の午後。街は人で溢れかえっていた。時々過ぎる冷たい風を遮るように身を寄せて歩くカップル、人ごみに紛れてしまわないようにしっかりと手を繋ぐ親子、一足早くコートに身を包んで足早に通り過ぎていく人々―。私は自分よりも遥かに大きい彼の手を握り、雑踏を掻き分けるようにして歩いた。お洒落なアンティークショップが並ぶこの通りは、中でも一番好きな通りだ。いつもは孤独と不安でいっぱいだった胸も、彼が隣に居るおかげで安心して歩くことが出来た。
「てめぇ、どういうつもりだ」
「なにが?」
「カス共と同じ空気を吸うだけでも我慢ならねぇのに」
「いいじゃない、たまにはこういうのも」
無理やり連れてきた彼は、一般市民と一緒にされるのが気に食わないのか相当怒った様子だった。まぁ怒っているのはいつものことなので、私は気にせずショッピングを楽しむことにした。「何でこのオレが一般庶民などと…」そうぶつぶつ言ってはいたけど満更嫌でもなさそうで、XANXASは繋がれていた手を振り解くと、その空いた手で私の肩を抱き寄せた。
あの特殊暗殺部隊ヴァリアーのボス―いつもは遠くに居るような感じがしてた人も、こうして肩を並べて歩くとただの人と変わり無かった。自分の隣に人がいる、しかもそれが大好きな人であれば、これ以上幸せなことは無いだろう。
「見て見て、あの時計可愛いよ」
「あ、あのカーテン、あなたの部屋に凄く合いそうじゃない?」
「わあ可愛いピアス!見て、似合う?」
ほとんど私が喋ってばかりだったけど、それでも一人で居るときとは比べもににならないほど楽しくて、私はつい子供のようにはしゃいでしまった。楽しいと時間が過ぎるのが早いもので、気づけば日の暮れる時間になっていた。昼間は人で賑わっていた街も、段々と静けさを取り戻していく。
帰りは少し遠回りをして、大きな黄色いアーチを描く並木道を歩いた。はらはらと舞い落ちる葉はとても幻想的で、思わずその光景に目が釘付けになってしまう。まるで落ち葉の雨のよう―。
「お前は」
今まで黙まりだった彼がいきなりしゃべり出したので、私は急いで視線を彼の方に向けた。オレンジ色の光をバックに立つ彼は、何だかとても淋しそうに見えた。
「もし、オレから何も無くなっても、お前はオレの傍に居たいと思うか?」
「いきなりどうしたの?」
「何でもねぇ。ただ思ったから言っただけだ」
ひらり、行き先を間違えてしまった葉が一枚、彼の頭の上に堕ちた。
いつも威厳たっぷりの彼がこんな事を言うなんて、これも秋の黄昏の仕業だろうか。こんなにも愛しい彼の傍を離れるなんて、考えもつかないことだった。
「例え何も無くなっても、人が何と言おうとも、貴方が私達のボスであることには変わりないし、それに傍を離れるなんて頼まれても嫌よ。
私はあなたを愛してる。この気持ちは何があっても変わらない」
私は少し背伸びをして、彼の頭上にある葉を手に取った。
ぱっと視線を彼の目に移したときには、私達の唇は重なり合っていた。
オレンジ色の照明がゆっくりと消え、変わりに天空に散らばる幾千もの星が私達を照らして行く。
「お前はオレだけを見ていればいい」
そう言った彼の瞳はとても輝いていて、先程一瞬だけ見せた悲しそうな表情が嘘みたいに、いつもの威厳たっぷりの"ボス"に戻っていた。私の居場所は彼であり、
例え引き離されようとも、世界が滅びようとも、私の帰る場所は他を探しても思いつきそうにない。私はこの先もずっと、彼に焦がれて生きていくのだ。
秋の黄昏 君に焦がれ
2007/11/11