夏は一番好きな季節だと思う。これと言って理由があるわけでもないけど。たぶん、お祭りとか、花火とか、海とか、プールとか、この季節だからこそ楽しめるイベントが沢山あるからかもしれない。(きっと竜崎はどれも行きたくないって言うんだろうけど)
「、歩くの遅いですよ」
「え?ごめんごめん、つい見入ちゃって」
「手、繋ぎましょうか」
「…うん」
私達は、一面に広がる向日葵畑の間を歩いていた。初めは此処に来るのが乗り気じゃなかった竜崎も、向日葵の美しさに感化されたのか、今では「たまにはこういうのもいいですね」なんてご機嫌な様子だ。だから部屋になんか引き篭もらずに、外に行こうっていつも言ってるのに。
辺りを見渡せば大好きな向日葵の花が、太陽の光を一杯浴びながら空に向かって高く高く背伸びしている。自分の背丈よりも高いそれは、まるで太陽みたいに、凛とした姿で咲き誇っていた。淋しさも、弱さすらも感じさせない―だから私は向日葵が好きなのだ。見ているだけで、自然と生きる気力も湧いてくる。
「此処ね、私の思い出の場所なの」
「…前の男とのですか?」
「ちがーう!何でそうなるのよ。小さい頃にね、お母さんとよく来てたの。は向日葵のように強い子になりなさいって、此処くる度言われてたな」
「なるほど。どうりで…」
「え?」
いきなり被っていた麦藁帽子を外されて、何するの―と、言おうと思ったら竜崎がキスしてきたせいで、その言葉も虚しく飲み込まれてしまった。ひゅう、と靡く風が私達の間を吹き抜ける。それを受けた向日葵が、まるで笑ってるかのように可愛く身体を揺らしていた。ああ、幸せの瞬間って、こういうことを言うのだろうか―。
唇が離れた後、私達はお互いの顔をじっと見つめあった。トクトクトク―まるで片思いの時みたいに、胸の中が騒がしい。追い討ちをかけるみたいに、彼が私の髪をそっと撫でるものだから、胸の高鳴りは最高潮に達そうとしていた。
「は向日葵がよく似合いますね」
「…もう、わざわざ話に合わせなくてもいいよ」
「あなたのその笑顔で、私は何度も助けられてきました」
「あー恥ずかしいからやめてー…!」
ドンッ、と竜崎の白いTシャツ目掛けて思い切り叩いた。だけど、そんなの効くわけがなくて、そのまま彼の腕の中に押し込まれてしまった。身動きが取れない私は、仕方なく彼の胸へと顔を埋める。
「また、来年も二人で此処に来ましょう」
「…来年も一緒に居てくれるの?」
「変な質問ですね。私の傍から離れることなんて、私が許しませんよ」
そう言って竜崎は、そっと頭にキスを落とした。
彼と過ごしてきた日々は、思い出なんかにはしたくない。夏になれば何度も咲き誇る向日葵のように、ずっと私達を照らし続ける太陽のように、消えることの無いこの恋を、二人でずっと一緒に育んでいきたい。
来年も、大好きな向日葵に囲まれながら、あなたの不安や淋しさも全て受け止めてあげられるくらい、笑っていられたらいいな。
向日葵の花咲く頃に