暮れなずむ空、オレンジ色に染まった世界、淋しそうな背中。
気づかなかった。今までずっと、彼女は強い女性だと思っていた。いつも笑っていて、彼女の傍に居るだけで勇気付けられるような、明るくなれるような、そんな気がしていた。だがそれは表面上の顔に過ぎなくて、本当の彼女はとても小さく、脆く、支えてあげなければ今にも崩れ落ちてしまいそうだった。

誰よりも守ってあげなければならないのは、彼女だったのだ。



そっと声をかけると、驚いた彼女がびくっと肩を震わせた。

「わ、びっくりした」
「どうしたんですか?」
「ん、夕日が綺麗だったから思わず見惚れちゃった」

相変わらず彼女は満面の笑みを浮かべて楽しそうに喋る。その姿を見るとつい自分も釣られて口元が緩んでしまう。の隣に立ち、彼女の瞳に写しているものと同じものを自分の瞳にも写した。
夕日が沈もうとしている。それは毎日行われている極ありふれた風景なのに、何故かその光景に釘付けになってしまった。そういえば今までこんな風にじっくりと眺めた事が無かったかもしれない。

「綺麗ですね」

時々吹き抜ける風は、彼女の長い髪をそっと靡かせる。
夕日に映えた黒い髪は、とても美しく見えた。

「竜崎、」
「はい」
「…抱きしめてくれる?」

弱々しい声と逆に彼女の強い眼差しは煌々と光を放つ太陽に向けられたままだった。本当は苦しくてたまらないのだろう。キラを追うその行為が、常に死と隣合わせであることぐらい彼女にもわかっているはずだ。
私は何も言わずに後ろから腕を伸ばし、そっと彼女を抱きしめた。

「わたしね、竜崎に抱きしめられてるときが一番好き」

彼女の手が、優しく触れる。
聞こえるか聞こえないかの声で呟いたその言葉は穏やかに流れる風に溶け込んでいくようだった。

「幾らでも抱きしめて差し上げますよ、あなたが望むのなら」
「じゃあ、一生傍に居てくれる?」

どう答えたらいいかわからなくて何も言わずに居たら、くるっとが振り返ったので思わず心臓がドキリと跳ねた。嘘でも彼女の望む言葉を言うべきだっただろうか?それのせいで苦しめてしまうかもしれないのに?怖くてまともに目を向けられなかった。「嘘よ、うそ。一度言ってみたかっただけ」はそう言って目を細めてニッコリと笑うと、私の右手の小指に彼女のそれを絡ませ、

「でも、ずっと生きててね」

と、小さく手を揺らした。



あの時嘘でも答えを出すべきだった