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少し肌寒さが残る朝、お互いの温もりからなかなか離れられない私達は、布団の中で肌を重ね合わせたままでいた。そんな中でポツリ、と 葵 が呟いた。まるでビー玉の様にキラキラと輝く大きな瞳には、はっきりと私の顔が映し出されていた。
「どうしました?」
「ううん…こうしてられる事が、一番幸せだなぁって思って」
「はい。私も幸せです」
彼女の髪に指を通して、そっと目蓋に口付けた。 葵 の言うとおり、今の一番の幸せといったら、彼女の傍に居られる事だった。ギュ、と抱きしめれば、彼女の心臓の鼓動が直に伝わって来て。お互いの温もりをはっきりと感じられる、これ以上の事はきっと無いだろう。
こんなにも女性が愛しいと思った事は今まで一度も無かった。葵へ抱く感情が、いつの間にか芽を伸ばすみたいにすくすくと育っていって。彼女と居る間はまるで早送りされたみたいに、時間が過ぎるのを早く感じる。もっと、もっと一緒に居たい。自然とそう思う気持ちが早走りをして。
出来ればこのままずっと、彼女を抱いていたいと思った。
「そろそろ、朝ごはんにしようか」
もういいかげん起きないと、そういった口調で葵 が切り出した。温もりが離れて行ってしまうのが、何故か無償に悲しくて、ベットを出ようとする 彼女の腕を軽く引っ張った。ギシッと、ベットのスプリングの音が一瞬激しく響いた。ちょっと力を入れただけなのに、彼女はバランスを崩し、簡単に私の上へと倒れこむ。驚いた顔をした彼女を、すかさず傍に抱き寄せた。
「びっ…くりしたぁ」
「もう少し、このままでいましょう」
「さっきから、ずっと同じ事言ってる」
「もうちょっとだけ、です」
「わかった」
葵 は私の我侭に嫌々付き合うという様子も無く、彼女もそっと、私の背中へと手を回した。寒いから、という理由では無い。離したくない。離れたくない。彼女を思う気持ちが頭の中で交差して、気づけばそれが行動となって現れていた。
もう、ずっと前から気づいていた。
葵は私の人生の中で、決して不可欠な存在だということを。
「Lは、私に触れるのが怖い?」
あれは、初めて彼女を抱いた夜だった。まるで私の心を見透かしてるように、葵 は言った。
彼女と出会うまで、私は人と触れ合う事をずっと恐れていた。孤児院育ちだったからか、"温かさ"というものを知らずに育った。今思えばそのせいで、性格も少し歪んでしまったのかもしれない。正直、人間関係というものほど面倒臭いものは無いと思う。だから、別にそれが無くても不自由の無い生活は送っていた。パソコンがあれば一日なんて直ぐ終わってしまうし、勉強なんて教えてもらわなくても一人で出来た。
だけど実際は、そうじゃなかった。誰かに手を差し伸べて欲しくても、ずっとその感情を心の奥にしまい込んでいただけで。本当は、淋しかったんだ。
それを、葵 は一発で見破ってしまった。
「大丈夫。大丈夫だよ、L。あなたの淋しさも、怖さも、辛さも、全部私が受け止めるから」
「葵…」
「ね?ほら、もう怖くない」
あの日から、私は少しずつ変わって行った。不安や怖さなんて、彼女の傍に居る間は忘れることが出来た。
そして、葵は私の中で、かけがえのない女性となった。
「…んっ…はっ、はぁ……」
腰をうねらす度にベットの軋みが酷くなる。背中に当たる彼女の爪が、キッと突き刺さるのがわかった。今の、自分のどうしようもない気持ちをぶちまけるように、自身を奥へと突きつけた。悲鳴と共に、彼女の腰が大きく跳ね上がる。
「あああっ…!!…え、る……っ…」
「愛してます。愛してます、葵」
深
い哀しみも、
積もる不安でさえも
いつの間にか、跡形もなくなるほど、綺麗に消えてなくなっていた。