空の色がだんたんと明るくなり、もうすぐ夜も明けようとする時刻。ベット脇のテーブルに置かれたままになっていた携帯が、バイブで辺りを振動させる。ディスプレイに表示される、非通知の文字。
「お久しぶりです」
その声を忘れるわけがなかった。ついこの前まで、当たり前のように傍で聞いていた彼の声。
緊張で手が震える。不思議と離れて居るのが嘘みたいに、竜崎がとても近くに居るような感じがした。
「元気でやってますか?」
「うん…」
「朝はちゃんと起きれてますか?変な男に騙されたりしてませんか?仕事は…」
「竜崎、心配し過ぎだよ。あなたが居なくても、ちゃんとやってる」
「そうですか…それなら、いいんです」
「…でもね、」
「はい」
「やっぱり…淋しいよ」
ぽたり、ぽたり、無意識に握り締めていた拳の上へ、雫が何滴か零れ落ちる。
「竜崎に、会いたいっ…」
気が狂いそうだった。朝目覚めても、仕事から帰ってきても、いつだってこの部屋は真暗で、私を迎え入れてくれる人は誰一人居なかった。ドアを開ければ何時も愛しい彼の背中が見えたのに、瞳に写るのは闇ばかりだった。
「…朝日が綺麗ですよ。其方の部屋からは見えますか?」
「え…?」
そう言われてカーテンを開けてみたが、残念ながらビルの影になってこの部屋からは見られなかった。「ちょっと待って」どうしても朝日が見たくなった私は、クローゼットからカーディガンを取り出し急いで外へ飛び出した。
目の前には、驚くほど綺麗な太陽が、暖かい光を放ちながら空へ登ろうとしていた。
「本当だ、凄く綺麗…」
「……」
「竜崎…?」
何度呼びかけても受話器からは返事が無くて、ひょっとして切れてしまったのかも、と思った私はディスプレイを確認しようと携帯を耳から遠ざけた。ちょうどそのとき、背後から誰かの手が伸びてきて、気づいたら私は温かい感触に包まれていた。
「…私も、あなたに会いたくなって来てしまいました」
「…え…りゅ、ざき…?」
驚きのあまり、声が掠れて上手く喋れなかった。同時に涙がぼろぼろと零れてきて、目を開けることすら出来なくなる。呼吸が上手く出来ない。胸が、苦しい…
「もう泣かないで下さい」
竜崎はそう言ってそっと顎を引き寄せると、唇が軽く触れる程度のキスをした。
朝が来る