あたしから見たら、Lはすごく大きい。
そのLが、Lよりも大きな木を引きずって、それを施設の中庭に横たわらせた。
「えーる、それ、なぁに?」
「こちらへ来ますか?教えて差し上げますよ」
「うん!」
それは、願いの叶う素敵なもの。
き み に 願 い を
中庭を見下ろせる窓からその一部始終を見ていたあたし。
色とりどりの紙で作った綺麗な飾りがいくつもあって、まるでクリスマスツリーのよう。
なんだかとてもワクワクして、急いで階段を駆け降りLのところへ走った。
近くで見ると更にそれは大きく感じ、けれど木と呼ぶにはあまりに細い。
「笹というんですよ」
「ササ?」
「そしてこれは短冊といいます」
ピラ、とあたしの手に、紙切れが渡される。
「七夕というのをご存知ですか?」
「ううん、知らない」
「これは中国で生まれた伝説で、のちに日本に語り継がれたものなんです」
Lはそう言って、織姫と彦星という星があることから、その二人が一年に一度しか会えなくなった経緯までを話してくれた。
そして7月7日の七夕の日に短冊に願い事を書いて笹へ結ぶと、それが叶うらしいのだ。
彼はいつもこうやって、世界中で見つけた面白いことをワイミーズハウスへ持ち帰っては、あたしたちに教えてくれる。
「これ…本当に願いが叶うの?」
「最初から疑ってかかっては叶いませんよ、は何を書くんですか?」
「そんなにすぐ浮かばないよ…、ゆっくり考えてい?」
「もちろんです」
失敗したときのためにと何枚か余分に貰い、あたしは中庭を出た。
本当の理由は、一番にメロに教えてあげようと貰ってきたのだけれど……
「…好きじゃないだろうなぁ、こういうの…」
あたしの足は、迷わず屋上へと向かった。
天気のいい日は、大体そこで本を読んでいるメロ。
その予感は的中し、ドアを開ければ貯水タンクの日陰に寝転がった彼を見つける。
そして、また別の予感も的中した。
「……お前14にもなってそんな作り話信じてるのか?」
…ほら、やっぱりそう言うと思ったのよ。
メロは寝転んだまま、いくら透かしても真っ白な短冊を太陽にかざして、あたしをバカにする。
神様にお願いするなら努力しろ、というタイプなのだ、彼は。
もちろんその姿勢を周りの者に決して見せはしないけど、あたしはメロが明け方まで寝ずに勉強してるのを知っていた。
だからこの話も、紙にお願いするくらいなら自分で動けといったところだろう。
「作り話じゃなくて伝説だってば…」
「同じようなものだろ」
「でも一年に一回しか会えないなんて切なくない?あたしは嫌だなぁ、しかもさ、なんとか川を隔ててじゃなきゃ…」
「天の川」
「そう、天の川………なんで知ってるのよ?メロ」
「……何かの本で読んだからな」
バカにしたくせに、その伝説のことをよく知っているようだ。
メロはそう言いながら起き上がると、ペンのキャップを外す。
「…書くの?」
「が書けって言ったんだろ」
「じゃあ、なんて書くの?」
「…さぁな」
二人して冷たい貯水タンクを背に座り、願い事を考える。
ちら、と左に目をやれば、メロもなかなか思いつかない様子でペンを止めたまま動かない。
「…そんなに考え込んでどんだけデカイ願い事をする気なんだよ」
「メロこそ…何も書いてないじゃない」
「すぐには思いつかないもんだな…」
「…うん」
もっと身長が伸びますようにとか、成長すれば必然と叶う願いじゃつまらない。
見えないこの先に、こうだったらいいなぁ、と思うことを考える。
あと何年か経ったら、あたしもメロもこの施設を出るだろうけど、それで終わりにはしたくない。
そしたら、自然と願い事は浮かんできた。
「…なあ」
「んー…?」
「……なんで俺の名前書いてんだ」
「っきゃあ!…見たの?!」
「…俺の名前だけな」
「気のせいだよ…、メロも早く自分の書いて書いて」
彼に背を向けるように座り直して、思わずグシャと握り締めてしまった短冊を開く。
書き直しだ、そう思って新しい短冊に手を伸ばそうとしたその時、背中にずしりと重みが乗った。
「ちょ…っメロ、なに…っ」
「人の名前書いておいて気のせいはねぇだろ。見せろ」
「無理!ダメ、絶対笑うもん、叶わないもん、」
…この願い事は。
右から左からメロの手があたしの体の前に回り、胸元で握り締めた両手を無理矢理抉じ開けようとする。
手の中の短冊は、もちろん小さくグシャグシャになってしまい、なんだか罰当たりだ、なんて思った。
本当に叶わなくなったら、どうしてくれるんだ。
「あのな…、最初から叶わないなんて言ってたら叶うもんも叶わねぇよ」
「……っ、だって、」
男の人の力に当然敵うはずもなく、固く結んだ握り拳はあっさりと開かれる。
後から抱きしめられてる形のままで、メロはそれを破れないように開いていった。
あたしはというと、目の前で短冊を開いているというのに、先ほどの抵抗疲れか、それともあまりの緊張に手足が固まってしまったのか、見ているだけで動けない。
早く取り返さないと、メロに見られてしまうのに。
ぎゅっと目を瞑りながら、この時ばかりは心臓が背中に付いてなくてよかったと思った。
「…おい、」
「……っ」
「返事しねぇか」
両肩を掴まれて、後ろのタンクへと押し付けられる。
さっきより背中が冷たく感じるのは、きっと体温が上昇しているせいだ。
目の前には、綺麗に広げられたしわしわの短冊。
「……見ちゃった…?」
「…見たけど?」
「笑わないの…?」
「今更だろ…最初から笑えるんだよお前の行動は……」
そう言って彼は、吹いてきた風にその短冊を飛ばしてしまった。
あ…、と、それを目で追えば、その視線を遮るようにメロの顔が目の前を覆う。
突然の事で、コツと鼻と鼻がぶつかった後に唇が熱くなる。
足元に置いてあった予備の短冊も、あたしの目の前をパラパラと風に舞い飛んでいった。
肩を掴まれている部分が燃えるように熱い。
「………メ、ロ…?」
一瞬、二人の間が離れた隙に名前を呼んだが、メロは返事もしないで再び口付けてくる。
その角度が変わって、メロの髪越しに、施設の大きな時計塔が見えた。
「…っ!む……ンん………」
舌で唇を押し開き、口内に侵入してくるそれが、あたしの舌とぶつかってクチュ、と絡まる。
初めての事に驚いて何か出来るわけでもなく、ただ彼の舌を噛まぬよう、ぎこちない動きでそれを追う。
次第に、飲み込むのに追いつかない二人分の唾液が、口の端から伝い落ちて首の方まで汚していった。
「は…ぁ…、ふ……」
「、」
「ん……?」
「…くだらない事をするな…、こんな紙切れに願うな、俺に言えばいいだろーが」
「……え…?」
「あれは俺に言えば叶うって言ってんだよ」
メロはべ、と舌を出して、顎に伝った唾液を舐め上げる。
「…っ、……ん!」
「……」
思い切り体を強張らせたのがメロに伝わったらしく、彼はすぐにあたしから唇を離した。
そして自分の服の袖で、あたしの口元をグイと拭う。
「メロ…?」
「こういうのにはな、背が伸びますようにって書いときゃいいんだ、チビ」
「……だっ…て…メロ、本当に…メロが叶えてくれるの?」
「一年に一回じゃ嫌なんだろ?」
「うん…、嫌だ…」
一年に一度しか会えないだなんて冗談じゃない。
毎日会いたい。
くしゃくしゃっとあたしの髪を掻き乱して、メロは笑う。
「…じゃあ、短冊には背が伸びますようにって書くね」
あたしの一番の願いは、メロが叶えてくれる。
end.
その頃の、風に舞ってきた短冊を拾った思春期マット。
『メロとこの先もずーっと一緒にいられますように』
「……なんでアイツばっかモテんだコラァ!!」
後記
15000hit、泉葉流さんから頂いたリクはドキドキする夢でした♪
七夕が近いなぁということから取り入れてみたのですが、おかげでワケがわからなく…。
口が悪いけど言ってることは優しいのがドキっとしちゃいますね、私的に。
あと両思い後より前のほうが…ドキドキしませんか…?(アナタだけ)
い、泉さんお待たせしたうえにこんなで申し訳ありません;
ドキドキの欠片もないですが、受け取って下さいませ!
では、最後まで読んでいただきありがとうございました★
-----------------------------------------------------------------------
わわわわ金のかんむりの世良アコ様から頂きましたー!
素敵すぎる…メロがかっこよすぎますー!メロの優しさが滲み出ててキュンってなりましたwドキドキも止まらなかったです…!
15000hitおめでとうございます♪♪ではでは本当にありがとうございました!!