「...なにしてるの」
ああ、怒られる。
意識が飛びそうだってときにこんなことを考えてしまうあたしはどれだけこの人のことを恐れているんだろう。真っ黒な学ランと共に雲雀の顔も歪んで見えた。熱のせいか、もう怒ってるからかはよくわから なかったけど。
あたしはまるで、もつれた前足と後ろ足をいつまで経ってもほどけずにただ横たわってもがくことしかできない弱い弱い草食動物みたいだなと思った。だけど何も考えずにライオンの住処にもぐりこんだわ けじゃない 。迷い込んだけでももちろんない。当たり前だ。普通なら避けて通るはずのこの場所に来るつもりがなければ間違ったってたどり着くはずがない。あたしはあえてここに来た。のぼせそうなくら いに熱い身体は容赦なくあたしの体力と意識を奪っていった。
自分がどれだけばかなのか今日のことではっきりした。ばかだ、あたし。ふらふらになってまでどうしてライオンの住処にやってくる必要があったのだろう。ふらふらの上に寒い。寒くて仕方がない。身体は震えるくらいに寒いのに顔だけは熱くて熱くて、もうどうにかなりそうだ。ううん、もう、どうかなってる。だ ってあたし、ばかだ。あったかくってあたしを優しく出迎えてくれるオアシスにでも行けば良かった。ばかばかばか。あたしの、ばか。雲雀が喜ぶわけでもないのに。ううん、それより迷惑がられるかもしれない。出てけって言われるかもしれない。・・・その可能性の方が高いことくらいいつものあたしならわかるはずなのにな。本当にばかだ。最後の力を振り絞るなら保健室よりも応接室に行こうだなんて思 ってしまったあたしはどうしようもないくらい、雲雀ばかなんだ。
「君、何しに来たの」
意識が戻ったあたしに雲雀が掛けた第一声がこれだ。心配のかけらもないような言葉以上にその迷惑極まりないんだけどみたいな目が何より熱にひびく。わかってたけど、さ。
「...ごめん、なさい」
怒られる前に謝るのは基本中の基本だ。自分が悪いだとか悪くないだとかそんなことはどうでもいい。雲雀のあの目を見たらとりあえず謝る。いつものことだった。だけどこの場合、あたしが悪いのは間違いないんだと思う。昨日雲雀に「明日は学校休みなよ」なんてかなり嬉しいことを言われたにもかかわらず(正直、ほんとうにほんとうに嬉しくってどうしようかと思ったくらいだ)(だって雲雀が、雲雀が、・・・!)むしろあんな嬉しいことを言われてしまったから余計に雲雀が恋しくなって、下がらないままの熱を持って学校へ来てしまった。お昼休みの直前に耐えられなくなってとうとう教室を抜け出したわけだけど、足が向かった先は保健室じゃなくて応接室。あたしの判断は正しかったんだと思う。そもそもあたしが今日こんなにも無理して学校に来たのは雲雀に会うためだったんだから。それになんだか身体の震えも止まってる。不思議だ。その上、さっきから雲雀の匂いに包まれてる気がする。たとえ錯覚か気のせいだったとしてもそう思うだけで熱なんてどこかに消えてしまいそう。だけど雲雀の視線は消えてくれない。(消えてくれなくていいんだけど、だけど、怖い、!)雲雀が不在の応接室に勝手に入ったことと、座ってることもつらくてソファで寝てしまったこと。そのせいであたしは今、雲雀に見下されてる。真っ白なカッターシャツがまぶしいくらいだ。あたしが今横たわっているソファは雲雀がいつも座ってるもの。ああ、雲雀。わかってるのに動けないよ、ごめんなさい。(だけど熱が無かったとしてもそんな風に雲雀を目の前にしたらいろんな意味で動けなくなると思う)(かっこ いいわ怖いわで、!)
「僕の忠告を聞かないなんて 何考えてるの?君」
「...ごめんなさい」
「随分良いご身分だね。どういうつもりだい」
「お、起きるから!どくから!ごめ、ん・・・ちょっと、つらく、て・・・あれ?」
身体を起こしてあたしはようやく気が付いた。
「ひば、ひばり、これ、・・・!」
「いいから寝てなよ」
「でも、ひばりが座るところ」
「僕に心配掛けるなんて良い身分だって言ったんだ」
「...へ、?し、心配って、ひ、ひばりが・・・?」
「悪い?」
身体の震えが止まった
わけ
雲雀があっためてくれたから。
「雲雀、あの、これ・・・学ラン、!」
「大体、こんなところで寝るなんてことが間違ってるんだ」
雲雀のそんな顔、初めて見た。
「・・・しょうがないから今日一日貸してあげるよ」
ああ、熱が、ぶり返す。
(雲雀のそんなに優しいなんて、雲雀がそんなに可愛いなんて、。)
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ものすごい突発雲雀さん!(早く元気になってくださーい!)